2018年2月22日、23日の2日間、NTT武蔵野研究開発センタにおいて「デジタル技術が彩る未来へ」をコンセプトに、「NTT R&Dフォーラム2018」が開催された。

平昌オリンピックの開催時期に示されたのは、2020年に向けて試合観戦体験をアップデートし続けるテクノロジーの現在地だった。

超高臨場感通信技術「Kirari! 」が見せた3つの“BEYOND”

R&Dフォーラム 2018では、空間の臨場感をまるごとリアルタイムに伝送することをめざした、超高臨場感通信技術「Kirari!」の新たな可能性がお披露目された。

デモンストレーションで「Kirari!」は、新たに3つの”BEYOND”を、来場者たちに示した。「Kirari!」が飛び越えたのは、「Distance(距離)」「Frame(枠)」「Time(時間)」だ。

BEYOND DISTANCE

最初のデモンストレーションでは、平昌2018冬季オリンピックのフィギアスケートが開催されていた韓国の江陵にいるリポーターがフォーラム会場にリアルタイムに伝送され、ステージ上で現地の雰囲気や日本代表選手団の活躍などの報告を行った。

「Kirari!」の通信技術により、江陵で撮影したカメラの映像や音声をタイムラグなく伝送。離れた場所の人物や空間がリアルタイムにステージ上に再現された。韓国と日本をつなぎ、「Distance(距離)」を越えて、離れた場所の熱気や臨場感を伝送できるることを示した。

BEYOND FRAME

続いて、フィギュアスケート選手の髙橋大輔氏の演技が公開された。複数台設置した4Kカメラから撮影した映像をリアルタイムに繋ぎ合わせることで、超ワイド映像を作り出し、観客があたかもスケートリンクを目の前で見ているかのような感覚を再現した。

さらには、映像に合わせて会場内の照明も同期され、通常の映像の「Frame(枠)」を越え、さらなる高臨場感を実現した。

BEYOND TIME

フィギュアスケートのデモンストレーションが終了した後は、会場にPerfumeの振付で知られるMIKIKOが率いるダンスカンパニー「ELEVENPLAY」のメンバーが登場。ホールの中央や左右に特設されたステージ上で3人のダンサーによるパフォーマンスがはじまった。

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踊っているダンサーの少し前の姿がステージの別の場所に現れる。タイムラグをともないながら、ステージの各所でリアルのダンサーと投影された少し過去のダンサーが共演をはじめていく。

ダンサーが踊っている姿を4Kカメラで撮影し、背景込みの生映像からリアルタイムに人物のみを抽出。ステージに張られた半透明のスクリーンに投影することで、あたかも本物のダンサーのような立体感とリアル感を伴う映像が出現し、過去の自分との共演を実現させた。

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現在のダンサーと、投影された少し過去のダンサーとが共演。映像の再生時間をコントロールしたパフォーマンスはやがて会場全体に広がっていき、複数の時間軸が共存する、「Time(時間)」を越えたダンスが披露された。

遠隔地で小さな競技場を囲んで観戦を可能にする「Kirari! for Arena」

フォーラム会場内では、競技が行われているアリーナから離れた場所で10分の1スケールで空間を再現する「Kirari! for Arena」も展示された。同展示では、競技空間を複数のアングルのカメラで撮影して伝送し、中継先でそれらの映像を合成することで、多方向からの観戦を可能にしていた。

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「Kirari! for Arena」では、中継元で選手の映像だけではなく、位置情報も把握。従来であれば、臨場感の再現は左右の動きに限られていたが、奥行きを再現することが可能となった。

多方向からの観戦が可能であるため、「Kirari! for Arena」を囲むような形で多人数での観戦もできる。小さな競技場が離れた場所に登場し、大勢で囲んで観戦する体験は、競技開催地から離れた場所でのスポーツ観戦にも変化をもたらすだろう。

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「Kirari! for Arena」は、今後各要素技術の高度化を進め、コストの低減に取組む。現場でのセンシング、処理・配信による中継、遠隔地での再現といったすべての処理プロセスにおける技術開発を進めていくという。

群れをなして動くドローンが観戦にもたらす変化

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観戦スタイルを変えそうなテクノロジーは、「Kirari!」だけではない。ICTとアートの融合による新しいユーザ体験のコンセプト創出や研究の推進をめざしているNTTとアルス・エレクトロニカ・フューチャーラボも、ドローンを活用した新しい観戦のあり方を示した。

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「IoTの時代には、ドローンや自動運転車なども登場し、移動してるものもインターネットに接続しながら社会を構築していきます。そこで私たちは、『Swarm(群れ)』に着目しました。集合させて、一つ一つのドローンを光の粒として捉え、映像の集合体として扱うことでアリーナを作ってみようというアイデアです」

「Swarm Arena」は、空中を飛ぶドローンや地上を走るドローンにライトやディスプレイを搭載し、これらを何台も制御して群れのように動かすことで、光による演出や情報伝達を行う。

デモンストレーションでは、5台の空中ドローンと7台の地上ドローンを操作。空中や床面にLEDの点滅でさまざまな模様を映し出した。将来的にはスタジアムのさまざまな場所にディスプレイを出現させられる他、混雑する街路の空中に情報を出して通行人を案内することも可能になるという。

展示では、新しいスポーツ観戦体験の可能性が語られた。1つは、「Virtual Arena(仮想の競技場)」だ。遠隔地で行われている試合の様子を、ただディスプレイで観戦するだけではなく、ドローンを活用した動的なパフォーマンスと合わせることで試合の臨場感を再現しようという試みだ。

もう1つが、「Augmented Arena(競技場の拡張)」。実際のアリーナの空間をドローンが飛び、地面をドローンが走り、競技に関する情報を通知したり、観客参加型のエンターテイメントにつなげることを想定しているという。

「Swarm Arena」は、インターネットに接続する端末で社会が構成されるIoT時代を見越したアプローチだ。高速通信、大容量化、低遅延化、多数端末の同時接続を可能にする5Gが実現すれば、「Swarm Arena」の可能性はさらに高まるだろう。もちろん、「Kirari!」に関しても同様だ。

試合観戦の体験を大きく変えるだろうテクノロジーたちは、技術的・コスト的な向上を続けている。2020年にはさらに進歩し、私たちの体験を大きくアップデートすることだろう。

Photos : Tadayuki Uemura
Text:Junya Mori