人々の移動に関する膨大なデータを活用する

ドコモは、プラットフォーマーとして、この『つながる』を裏側で支えるとともに、つなげる過程で得た人々の移動に関する膨大なデータをさまざまな分野で活用をはじめている。その1つが「人口流動」だ。

モバイルネットワークでは、いつでもどこでも利用できるよう、基地局ごとに接続する携帯電話の情報を定期的に把握している。通信サービスを実現するために必要となる運用データには通信を行う携帯電話の位置データや、性別・年齢といったユーザーの属性などが含まれる。このデータを活用することで、人々の生活や移動をさまざまな角度からみることが可能となるのだ。

今回は『DOCOMO R&D Open House 2016』で展示された、ドコモならではのモバイルのつながる仕組みを利用して作成されるモバイル空間統計についてNTTドコモ 先進技術研究所 ネットワークシステム研究グループ 主幹研究員の池田大造に聞いた。

公共分野・学術分野・産業分野に活用できる『モバイル空間統計』とは

モバイル空間統計_人口分布統計

普段の生活はもちろんのこと、多くの人が1か所に集まるイベントや、災害などの緊急時まで。あらゆる条件下において誰もが『つながる』ことを、ドコモは目に見えない領域で支え続けてきた。その可視化されていなかった『つながる』価値を土台に、ドコモが新たに提供しているのが『モバイル空間統計』だと池田氏は語る。

池田「モバイルネットワークでは基地局ごとに接続する携帯電話の情報を定期的に把握しています。その通信サービスを運用するために必要となるデータには携帯電話の位置データや、性別・年齢といった接続するユーザーの属性などが含まれる。『モバイル空間統計』は、携帯電話の台数を集計し、普及率を加味して人口統計することで、人々の生活や移動をさまざまな角度から見ることを可能とするものです」

『モバイル空間統計』ではモバイルネットワークの運用データに基づき作成した人口統計を、さまざまな切り口で切り出し活用する。『特定の場所に集まる人は男性・女性どちらが多いか』『どの年代が多いか』『何時頃から人が増え、何時から減り始めるのか』『どのように移動しているか』など。データを通してさまざまな人々の動きを可視化・分析できるという。会場に設置されたディスプレイに写るデモ動画を例に挙げ、池田氏は言葉を続けた。

池田「たとえば、この動画では平日と休日の24時間、1時間毎の渋谷、新宿、池袋、東京といったターミナル駅周辺の人口分布を表しています。平日は人が多く、休日よりも早い通勤時間帯から人が集まる。また平日は特に東京駅と新宿駅に人が集まりますが、休日は東京駅周辺の人口が減っているのがわかります」

池田「こちらの動画では、原宿と秋葉原に集まる人々の、性別・年齢層別の人口構成を1時間ごとに24時間分を表しています。秋葉原には30-40代の男性が、原宿には20-30代の男女、特に20代の女性が多く集まっていることが見て取れるでしょう」

モバイル空間統計_人口流動統計

池田「『人口流動統計』は、日本全国どこからどこに人々が流動しているかを表します。たとえば、通勤・通学の時間帯に、人々がどこを出発してどこに到着したがわかるため、都市交通計画に役立てるというものです。アンケート調査では難しかった広域の流動の分析ができることから、新しい調査手法への活用が期待されています」

池田 「たとえば、次の動画では羽田空港がある東京都大田区から全国各地へ流動を示しています。飛行機が出航しはじめる時間帯から昼間にかけて、南は沖縄県から北は北海道まで多くの人々が移動している様子がわかります」

このように、モバイルネットワークの運用データから作成された人口統計からはさまざまなことがわかる。

注目を集める『インバウンド』での活用

現在、『モバイル空間統計』が特に活用されているのが訪日観光客数を調査するなど、インバウンドの分野だ。訪日観光客がどのように行動しているのかを知ることは、観光立国をめざす日本にとって欠かせない。『モバイル空間統計』は訪日観光客の動向を知る上でも活躍しているという。

 

池田「現在、年間約400万台の海外で契約された携帯電話がローミングでドコモのネットワーク網を利用しています。ドコモではそのローミングデータから、どこの国の観光客か、出国・入国した空港、滞在エリア、訪問ルートといった情報を整理し、『訪日外国人統計』として展開。日本にやってくる訪日観光客の行動を分析可能な形にし、次なる観光施策を考える上でのアセットとして提供しているのです」モバイル空間統計_訪日外国人動態統計

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たとえば、上記のデータは2014年秋における国別の訪日観光客数を表している。明るく表示されている部分ほど、人が多くいることを示すという。

池田「まず6つの地図を見比べると、アメリカ、オーストラリアからの観光客数より、中国、韓国、台湾といった近隣の国からの観光客数の方が多いことが明らかになります。次に観光先にフォーカスしてみると、中国や韓国からの観光客は、他の国からの観光客に比べ日本各地に分散していることも見えてきます。ちなみにこれが冬になると、オーストラリアからの観光客はスキーをするために長野を中心とした近県と北海道へ行く人々が圧倒的に増えるのが見て取れます」と池田氏は語る。

今後、2020年に向け着実に増加していくことが予測される訪日観光客に対し、日本はどのようなアプローチで迎え入れるべきか。そのヒントが、このデータには隠れているはずだ。

あらゆる場所、時間における人々の移動を可視化、未来予測まで行う『リアルタイム移動需要予測』

ドコモは、モバイルネットワークのアセットを活かし次なる一歩を踏み出そうとしている。それは『いま』の人口をもとに『これから』をリアルタイムに予測していくものだ。

ほぼリアルタイムに作成される人口統計と、交通の運行データをかけあわせ、AI(人工知能)を用いて移動需要を予測する『リアルタイム移動需要予測』の開発を現在進めている。

池田「『リアルタイム移動需要予測』は、人口統計を用いて未来の移動需要を予測する技術。そのひとつにタクシー乗車による移動需要予測があります。現在から30分後までのタクシー乗車需要をその台数で予測し、タクシーの効率的運行に役立てるというものです。現在は実証実験中で、ドコモの人口統計データだけでなくタクシーの運行データや、気象情報、施設データなどの周辺情報をAIで処理し未来のタクシー乗車需要を予測。この需要予測に合わせてタクシーを運行すれば、需要と供給の最適マッチングが実現できると考えています」

移動に対する需要と供給のバランスが可視化されることは、タクシーだけではなく、バスや電車といった他の公共交通も含めて応用が効く技術だろう。また今後自動運転車が実用化していくことで、移動手段の勢力図も大きく変わってくることが予測される。

人口減少・少子高齢化に直面している日本において、都市部だけでなく地方も含め交通における課題が近年顕在化してきている。特に移動の最適化は解決が求められる課題の1つだ。『リアルタイム移動需要予測』がその解決の一端を担うことが期待される。

どこでも誰もが『つながる』ことを支え、モバイルネットワークという社会基盤ともなる技術を擁するドコモ。人々が当たり前に使う、目に見えない領域を支えるだけでなく、同社ならではのアセットを用いて、『移動』の可視化・最適化に挑んでいるのが、今回の『モバイル空間統計』だ。

都市の高密度化や、訪日観光客の増加など、人々の移動ニーズの多様化が進むこれからだからこそ、人口流動の可視化・最適化も重要な役割を担っていく。

Edit : モリ ジュンヤ|Junya Mori
Text : 小山 和之| Kazuyuki Koyama
Movie Edit :三原 利昌| Toshimasa Mihara