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新しくスタートするのは、農家と消費者を直接つなぎ、農作物の販売・購入を行えるF(Farm)to Cプラットフォーム型ECサービス「FreshFirst(フレッシュファースト)」だ。フレッシュファースト上では生産者側は自由に価格を設定でき、消費者は農作物を好きな農家から自由に選び、鮮度の高い状態で届けてもらうことができるので、安心・安全な食を楽しめる。

従来のマーケットプレイスでも個別の農家から消費者が購入することは可能だったが、配送も個別で対応する必要があった。フレッシュファーストは集荷拠点を経由する配送することで、新鮮な野菜を農家から自宅までのリードタイムが最短1日のオンデマンドで購入できる仕組みを実現した。加えて、栽培情報と小売店のニーズを見える化 マッチングシステムを導入し、生産・販売のデータを活用することで生産予測および販売予測の情報を提供しようとしている。

農業領域で新規事業を立ち上げる

「フレッシュファースト」が立ち上がった背景には、NTTグループ全体で社会課題をICTで解決していくことに力を入れていこうという流れがあった。注力すべき大きな社会課題のひとつに「農業」が含まれていた。泉原、関、今野、梶本の4名がチームを組み、社内にノウハウのない農業に対する事業検討を開始した。

農業におけるICT化と聞くと、センサーでデータを計測し、自動で栽培をサポートするといったサービスを想像する。だが、チームが現場で発見したのは生産とは異なる課題だった。

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「最初は、 生産現場の課題解決に着目していました。ですが、現場に足を運ぶと、みなさん生産には慣れていて、うまく作物が作れないという問題はありませんでした。より高い値で買ってくれる売り先を見つけたいというニーズのほうが多いことがわかりました」

農業では、気候の変動で生産に偏りが出た際に、偏りに応じて市場価格が変動し、作物が想定していた価格よりも下がってしまうことが課題だ。こうした市場の調整を行うために「JA」が存在してるが、規格が限定されてしまい、農家の美味しく作るための努力が価格に反映されにくい仕組みになっている。

「農家の現状を見ていると「もっと改善できるんじゃないか?」と感じて、流通の部分をICTでサポートできないかと考えたことが、「フレッシュファースト/フレッシュコネクト」事業を企画したきっかけです」

メンバーが「農業」にかける想い

会社として新たな領域に取組むチームのメンバーは、どのような理由、モチベーションでサービスの開発に挑んでいるのだろうか。

「私は東京生まれ、東京育ち。農業とはまったく関係のない世界で、これまで生きてきました。「純粋に野菜が好き」というのが、サービスに関わった最初の理由です。このプロジェクトをきっかけに、農家さんの家に泊まらせていただいたりしました。

普段は都会の喧騒の中で生活しているので、田舎の良さに気づいたり、農地の美しさを感じて、農業の印象がどんどん良くなっています。ヒアリングにご協力くださった農家さんも良い人たちばかりで、彼らをサポートするサービスを作っていきたいと思っています」

農業に関わった経験が全くなかった関とは違い、今野は実家が農家だったり、親族に青果店を営む人がいるなど、農業に近いところで育ってきたという。

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今野「私は農村生まれ農村育ち。祖父が果樹農家をしていまして、りんごやさくらんぼ、ラフランスなどを作っていました。祖父が亡くなった際に、私の父は会社員だったため、農家は終わりになり、果樹を切ってしまって。それが、すごく寂しかったんです。青果店を営んでいた親戚がいて、毎年私は夏休みにお手伝いをしていました。

でも、その青果店も、もうお店をやめてしまっています。幼い頃に過ごした思い出の場所が消えていってしまうことが、私にとってはとても寂しかった。良い農家さんや青果店さんが事業を続けられる社会であってほしい。そんな社会を実現するためにも、この事業は成功させないといけないなって思っています」

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梶本「私は大阪出身で、入社当時は和歌山支店に配属されました。このサービスも和歌山からスタートなので、不思議な縁を感じています。農業分野で成功しているビジネスの例をほとんど聞いたことがありませんでしたが、成功させることができれば大きなインパクトになります。そして、そのカギはやはり農家さんにあります。実際に農家さんたちとお話すると、みなさん「儲かるならやる、儲からないならやらない」と、とてもハッキリしているんです。

やはりこだわりも人一倍強く、経営者としてのプライドもあります。「儲かる農業」の実現には、こうした個人経営をされている方々の協力が不可欠です。農家さんにエバンジェリストになってもらえるようなサービスにしなければならないな、と感じています」

チームのリーダーを務める泉原は、元々農業を営んでいた人物だ。農家だった泉原が、農家を支援する事業の立ち上げに関わるようになるまでには、どのような変化があったのだろうか。

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泉原「私は30代の頃、北海道で大規模農業を営んでいました。農業を営んでいると、毎日近隣のシニアの方々が100人ほどお手伝いに来ていただいて、虫取りとか草取りなどの作業をしてもらっていました。みなさん、とても喜んでくれる。体力的には大変な仕事なのに、毎日作業に来るのが楽しみだって言ってくれて。農業を通じて地域が元気になっていくのがわかるんですよ。それで、農業をもっと広めていきたいと思っていました。ただ、一人の農家として農業全体に貢献していくことは難しいと感じていて。そんなときに、ドコモで農業分野で新規事業を立ち上げるという話をいただき、ドコモに入社しました」

鮮度を重視し、ユーザーが買いやすい設計に

いま取組んでいるのは、中間流通を省くモデルのコマースサービスだ。消費者に直接販売するtoCモデルのサービス「フレッシュファースト」と、小売店に販売するtoBモデルの「フレッシュコネクト」。それぞれを関と今野で分担しているという。

「業界的には後発のサービスになるため、どう差別化させるかは考えています。フレッシュファーストは、ネットからご注文いただいた翌日に農家から出荷され、農家さんから顧客に届くまでに要する日数が、ほぼ1日になります。この話をすると「そんなに鮮度がいい状態のものが届くんですか」と驚かれます。食品の鮮度の良さは、フレッシュファーストの特長のひとつですね」

「産直の食品は、味や見た目が他とは異なり、消費者にも普段とは違う野菜が入っていることへの楽しみを提供したい」−−そう関は語る。鮮度に加えてこだわっているのが、UIのわかりやすさだ。

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「ユーザーがパッとみて直感的に買いたいものがわかるようなUIを目指しています。まるで、スーパーを歩き回っているかのような感覚を実現したい。品目は文字やカテゴリーで絞らずに、ぱっと一覧で見せて、写真でどういう商品なのかがすぐわかるようにしたいですね」

野菜はコマースの中では、一品あたりの単価が低い。そのため、送料をかけるに価するボリュームで購入してもらうことがサービス提供者としては望ましい。まとめて買ってもらうためにも、操作しやすい、購入しやすいUIは必要になる。

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「直接、一般に販売すると流通が分散します。大量に販売する際は小売に対して、まとめて販売するほうが効率的なのですが、そうなると販売の動向が掴めない。消費者のニーズや動向をドコモで把握しながら、ボリュームの多さにも対応しつつ、データを取得していきたいと考えています。将来的にはデータビジネスであったり、AIの導入などにもつなげたいですね」

ユーザーと農家をつないでいくことで、新たな野菜の購買体験を提供することが可能になり得る。

「地域や季節によって採れる作物は違います。フレッシュファースト上で、季節や地域間の違いをユーザーに知っていただきたいですし、農家さんの指名買いのようなことを可能にしたいですね。私がヒアリングさせていただいた農家さんは、本当に美味しいトマトを作っていました。できれば、その農家さんから毎回トマトを買いたいなと思うものの、仕組みもないのに毎回送ってもらうわけにもいきません。こうした状況を変えるために、フレッシュファーストでは、ユーザー御用達の農家さんがいるような仕組みを作っていけたらいいなって思っています」

実際に青果店になるくらいの気概で取り組む

toBモデルのフレッシュコネクトはどのように展開していくのだろうか。

今野「toBでは、最初はバイヤーが主なターゲットになります。彼らは小売店の売上を向上させるのが大きなミッションで、どうやって野菜売場で成果を上げていくのかを考えています。バイヤーは、農家、物流など様々なプレイヤーと関係していますが、ICTなどの情報技術に必ずしも詳しいわけではありません」

現状の方法に問題があると思っていない人々に、新しいサービスを導入してもらうことは難しい。導入を検討してもらうためには、提供するサービスが今までのやり方を上回るメリットがあることを理解してもらう必要がある。

今野「バイヤーに導入を検討してもらうためには、わたしたちが実際に青果店を経験するぐらいの気持ちでいかないとダメだなと思っています。それぐらいの気持ちで相手がなにをやっているのか把握しながら、目の前の人たちに合わせた言葉を使って話をしないといけない」

そう今野は熱のこめてサービスへの意気込みを語る。toBの領域にも競合は存在するが、こちらに関してはドコモが持つ強みが活きると今野は考えている。

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今野「もちろん、toB領域でも競合は存在します。ドコモとしてはタブレットや通信、データ分析などに価値をおいて、サービスを提供していけたらと考えています。バイヤーさんとのコミュニケーションの中で培った経験が蓄積されていくことで、それが新たな武器になると思います」

フレッシュコネクトでは、小売店に野菜を流通させられるようになった先のイメージも描いている。

今野「野菜と出会う場として小売店を最初のターゲットにしています。ですが、野菜の良さを伝えられる場所は他にもこだわりの野菜を使う特化型の飲食店など色々あります。小売店の次は、こうした店舗も攻めていけたらなと思っています」

農業総合研究所との事業提携

フレッシュファーストは、ICTの活用などドコモのアセットが活きる部分もありつつ、流通などこれまで経験してきていない領域への対応も必要な事業だ。足りない領域を補うため、ドコモは農業総合研究所と業務提携を実施している。

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泉原「農家とユーザーに直接やりとりしてもらって配送する仕組みにしてしまうと、既存のマーケットプレイスと変わりません。かといって、生産物を集めて、私たちが定期販売すると、在庫リスクが出てきてしまう。そのため、既存のプレイヤーと組んで、一緒に取組むのが一番の近道だと考えました」

協業先を検討していく中で、農業総合研究所のユニークな仕組みに着目した。農業総合研究所が行っているのは、言うなれば「道の駅」の仕組みをスーパーに導入することだ。道の駅では、売るスペースだけが農家に提供され、何を、どれだけ、いくらで出品するかは農家が決める。農家がリスクを背負う分、利益も高くなっているという。

今後、ドコモの強みであるICTやデータ分析等の強みを活かして、農業総合研究所との連携を強めていくことも視野に入れているという。

データの可視化が農業の未来を変える

今、日本の農業はさまざまな課題を抱えている。事業リーダーである泉原は、「フレッシュファースト/フレッシュコネクト」が農業のさまざまな問題を解決するトリガーになると考えている。

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泉原「農家には、情報がないんです。自分の畑以外のことをあまり知りません。どの作物を育てるべきか決定する際、キャベツのように需要に合わせて価格が上下しやすい作物は、他の農家が栽培しているかどうかの情報がない状態では判断が難しい。私が迷っていた際、知り合いに電話で聞いてみたところ「キャベツは全国でほとんど誰も栽培していない」という情報を知ることができました。供給の少ないキャベツをたくさん作れば儲かると考えて、たくさん植えます。その結果、実際に売上を伸ばすことができました。どれくらいの農家が、どの作物を育てようとしているかという情報が可視化されれば、価格が適正化され、農家も安心して作物を育てられますし、ユーザーも安定した価格で野菜が買えるはずなんです」

「情報が出回らないために、損している農家が多いんです」ーー泉原は自身の経験を振りかえってそう語る。フレッシュファースト/フレッシュコネクトでは、どの農家がどんな作物を作ろうとしているか

ユーザーはどんな作物を求めているのかという、需要と供給に関するデータを集めることができる。このデータを農家のために提供していくことができれば、流通以上に農家を支援することが可能だ。

泉原はフレッシュファースト/フレッシュコネクトによって、農業全体が変革していくことを思い描いている。

泉原「例えば、無農薬リンゴの栽培で知られる『奇跡のリンゴ』のように、自らの技術を人に伝える農家が増えると、農業はさらに変わると思います。ヨーロッパはノウハウに対してオープンで、一緒に高めていこうという意思があるんですよね。日本は農家が閉鎖的になってしまっている。この先、スター農家が現れ、さらにスター農家から学ぶ人が現れて、どんどん農家同士で高め合っていく世界にしていきたい。フレッシュファースト/フレッシュコネクトがその未来を実現するのに貢献できたら嬉しいですね」