nikkei_ent_201703_03_contents_01左は「Free Viewpoint LIVE」を用いたVRサービスの開発を行っているドコモの的場直人氏。

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ケント・モリ
1985年生まれ、愛知県出身。2006年に単身渡米。2008年にマドンナのツアー専属ダンスアーティストに抜てきされる。翌年、憧れのマイケル・ジャクソンの専属ダンスアーティストに選ばれるも辞退。2015年には自身初の映像作品集DVD『1』を発売。他にもクリス・ブラウン、アッシャーら大物アーティストの専属ダンスアーティストを務めている。

 マドンナやクリス・ブラウンといった世界の名だたるアーティストの専属ダンスアーティストを務めてきたケント・モリ氏が、ドコモの研究開発拠点であるNTTドコモR&Dセンタ(神奈川県横須賀市)を訪れ、実用化をめざして開発が進む新技術「Free Viewpoint LIVE」(囲み参照)を体験した。これは遠隔地からリアルタイムに伝送される人物の立体CG映像を、自由に動きながら見たい位置から見られる仮想空間を創出するもの。この新技術を活用すると、エンタテインメントの未来はどう変わっていくのか。開発に携わるドコモの的場氏に、ケント氏が話を聞いた。

ケント 自分が視点を変えると、本当に目の前に人がいるみたいに映像も変わっていく。しかも見えている相手はこの瞬間に映像化されたもので、リアルタイムに動く。頭では映像だと分かっているのに、本当の人として捉えてしまいそうな不思議な感覚。センセーショナルな体験でした。

的場 我々は自由視点映像の技術とVR(バーチャル・リアリティ)を組み合わせて、リアルタイムに動いている人を自由な視点で見せることに挑戦しています。現在、他で公開されている自由視点映像は、あらかじめ撮影した映像を何週間もかけて編集しているものがほとんどだと思います。それに対して「Free Viewpoint LIVE」はそうした撮影や編集作業を瞬時に行い、リアルタイムならではの臨場感や反応を体感できることが大きな特長です。

現実を超えた自由な空間

ケント VRの中では他人の邪魔になることもないから、現実よりも自由がありそうですね。たとえばライブを楽しむとき、自分の座席から一番前に移動して見てもいいし、ステージ側に立ってパフォーマンスしている人が見ている景色を疑似体験することもできる。スーパースターと肩を並べて踊ってもいいわけです。この技術を使えば、現実では近づけないところまで見える。ある意味、神の目を持つようなものですね。

的場 おっしゃる通り、現実を超える世界を見せることがVRの本質だと考えています。ライブを見るときにアーティストの衣装を自分好みに変えたり、ステージを屋内から野外に変更したりすることも自由自在にできるようになっていくでしょうね。

ケント まさにこれはSF映画の世界ですね。パチンと指を鳴らした瞬間に見ている世界が変わる。アフリカのサバンナから満天の星に飛ぶ。実際には飛行機のファーストクラスのシートに座っているとかね。それが可能となれば現実と非現実的なものが融合して、全く新しいエンタメが生まれてくる予感がします。

的場 さらにいえば、相手の詳細情報を画面にテキストで表示させる、人工知能と組み合わせて瞬時に欲しい情報を引き出すなど、もっと多彩で有用な情報を提供できるようにもなるでしょう。我々はこの技術に様々な付加価値をつけて、もっと便利で楽しいことが実現できるものに育てていきたいと考えています。

ケント 教育の分野にも活用できそうですね。僕は今、ダンスのワークショップで日本中を回っています。エンタメに直接触れる機会がない、近所にスクールがないという地域の人たちにも、ダンスを通してチャンスをつかむきっかけをあげたいと思っているからです。僕の体は1つで教えられる人の数にも限界があるけど、この技術を使えば住む場所に関係なく、より多くの人に対して平等に教えることができるようになりますね。しかも足もとを確認したい人、手先を見たい人など、それぞれが重点的にチェックしたい視点から見る自由を与えることもできる。画期的だと思います。

nikkei_ent_201703_03_contents_02この技術で双方向の交流を実現するには5Gの研究開発が重要

nikkei_ent_201703_03_contents_03現実と非現実が融合し全く新しいエンタメが生まれる予感がする

新たな通信技術5Gがカギ

的場 ドコモでは携帯電話やスマートフォンのサービスを提供していますが、我々が常に重視しているのはそれらを使った人と人のコミュニケーションです。ですから、逆に生徒がケントさんに質問する、ケントさんも生徒を映像として見ることができるようになるといった双方向のコミュニケーションも可能にしたいと考えています。ただしそれを実現するには、技術的なハードルが一段と高くなります。そこは我々通信会社のがんばりどころで、5G(ファイブジー)という新しい移動通信システムを使って実現しようとしています。5Gは2020年のサービス開始を目指しています。

ケント スマートフォンの画面上に「4G」と表示されているけど、この進化版と考えればいいですか。

的場 そうですね。現在は4G、つまり第4世代の移動通信システムで、5Gはその次の規格となるものです。携帯電話やスマートフォンでのやりとりが、音声やテキストから画像、動画と進化してきましたが、それを可能とするには通信の高速化・大容量化が欠かせませんでした。「Free Viewpoint LIVE」のように大量のデータのやりとりが必要な技術を用いたサービスを快適に楽しめるようにするには、現在の4Gから飛躍的な高速化・大容量化を実現する5Gの研究開発も重要になります。

ケント 通信技術が進化すれば、今までできなかったことができるようになる。新たなアイデアを発想するにはかけ算が重要だと思っていて、今回でいえば2つの技術のかけ算が新たな価値を生み出そうとしていると感じました。「Free Viewpoint LIVE」と5Gにより、現実を超える「超リアル」な世界が楽しめる時代が、そこまで迫っているんですね。

3DのVR映像をリアルタイムに伝送

機敏なダンスも高品位に再現

グリーンバックステージ内で立体CG化されるケント氏(右)。素早く動く、止まるといったケント氏のダンスもリアルタイムかつ忠実に再現された(左)

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リアルな映像に寝転がる場面も

人物がCG化された映像をVRヘッドマウントディスプレイで見るケント氏(左)。立体的な人物の映像を下から見上げようとして、思わずフロアに寝転 がる場面も(右)

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「Free Viewpoint LIVE」とは?

2020年の実用化を目指し、ドコモが開発を進めているVR技術を応用したサービスへの適用が期待される自由視点映像リアルタイム伝送技術。人物や物体をその周囲を取り囲むように設置された複数の専用カメラで捉えて瞬時に立体CG化し、そのデータを次世代移動通信システム「5G」でリアルタイム伝送する。受信した側はVRヘッドマウントディスプレイを使い、自分の好きな角度や距離から映像を見ることができる。エンタテインメントやスポーツの分野で、新たな楽しみ方が期待されている。

【日経エンタテインメント 2017年4月号からの抄録】

Text=日向進
Photograph=加藤康