“AI(Artificial Intelligence:人工知能)は、
もはやSFの世界の話ではなくなりつつある。”

AIの精度を飛躍的に向上させた「機械学習」や「ディープラーニング(深層学習)」を中心とする第3次AIブームを機に、人の暮らしにAIが介在する世界が本格的に見えてきている。

ここ数十年のインターネットの普及、そしてソーシャルメディアによって誰もが情報発信が可能となったことで、インターネット上には機械学習に欠かせない莫大な量のデータが蓄積されるようになった。半導体の集積率は18か月で2倍になるという「ムーアの法則」のとおり、この数十年で飛躍的に向上したコンピュータの処理能力も相まって、何十年も前から語り続けられてきたAIが人の仕事を代替する時代がそう遠くない未来に訪れようとしている。

もはや、人や企業もAIと無関係ではいられない。もちろん、ドコモも例外ではない。しかも、ドコモはAIと親和性の高いスマートフォンや携帯電話を主なビジネス領域としてきた。2008年11月にエージェント機能を備えた、レコメンド型サービス「iコンシェル」の提供を開始。また、2012年にはスマホ向け音声エージェントアプリ「しゃべってコンシェル」を提供しており、人に寄り添うテクノロジーの実現をめざしてAIの開発に取組み続けてきた。

“人の行動をサポートするテクノロジー”

ドコモが「iコンシェル」時代から持ち続けている目標の1つが、人に寄り添い、支えようとするテクノロジーの開発だ。AIの最新技術を取りこむことで、ドコモは優秀なパーソナルアシスタントを生み出そうとしている。

AIがパーソナルなアシスタントとして活動するようになると、どのような体験が生まれるのだろうか。たとえば、最近イスラエル発のタスク管理アプリ「Any.Do」が話題を集めた。「Any.Do」のアシスタントは、同サービス上に登録された10億以上のタスクデータを分析した結果をもとにタスクを自動化・簡素化してくれる。

 こういった動きに対し、ドコモでは別の切り口で取組みを行っている。さまざまな手段によって得られたユーザー情報から行動を分析し、次に行う行動を”先読み”した提案を行うサービスの開発だ。「DOCOMO R&D Open House 2016」で展示された事例をみつつ、紹介していこう。

“行動先読みプロファイリング”

1つめは、「行動先読みプロファイリング」だ。スマートフォン上の位置情報やカレンダーの予定、メールの文面などから次に行おうとしている行動をサポートしたり、対話を通して得たプロファイルから、ユーザーをサポートする。

たとえば、カレンダーに会議の時間と場所を入れておけば、出発すべき時間に通知してくれる。出社前の支度をしている段階で、天気予報と電車の運行情報をリサーチし、傘を持っていくべきであること、遅延が発生していることを通知してくれる。まさにパーソナルアシスタントになくてはならないものだ。

“加速度による食事内容の認識”

2つめは食生活でのサポートだ。利き腕に装着したスマートウォッチやアクティビティトラッカーの加速度・角速度などのセンサー情報をもとに、腕の動作から食事の種類を認識するのが、この「加速度による食事内容の認識」である。

ダイエットなど食事管理が必要な場面での活用を想定しており、認識した食事の情報をもとに、不足している栄養素などを考慮した最適なメニューの提案も行ってくれるというものだ。機械学習を用いて、ユーザーごとに異なる食事の動きパターンを学習、個々人への最適化も行われるという。

“ユーザーの状況・状態を用いた購買支援”

3つめは、スマートフォンに内蔵されるセンサーや、対話・QAを通して把握した状況から、ユーザーが必要とする商品をお勧めする「ユーザーの状況・状態を用いた購買支援」だ。

従来はユーザー属性や、過去の購買履歴などから行われていた商品のレコメンドを、ユーザーの状況・状態からコンテキスト(文脈)を推測し提案することで、より精度の高い提案に繋げられるこというものである。センサーからのデータという客観的指標をベースとすることで、ユーザー自身が気づいていなかったニーズの掘り起こしにつながる可能性も期待できるだろう。

これら3つの技術は活用分野こそ違うものの、AIを用いた行動支援をめざすものである。多くの人がメリットを享受できるまでには、恐らく多くの時間と知見の蓄積、技術の改良が必要となることは間違いないが、最適な支援を行うことができれば、生活は劇的に変化する。煩わしいことを考える必要すらなくなり、人間でしか行えない業務に集中する。夢ではなく現実として、人の生産性を最大化する未来が、先読みテクノロジーには秘められている。

それぞれの技術は未完成だ。だが、さまざまな場面で進化が期待されている。AIが人の行動を把握し、先読みを行い、状況や状態に適した支援を行うことができるようになれば、人の体験はどうなるのか。

“機械との対話や接客を可能にする技術”

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人の生産性を向上させるだけではなく、コミュニケーション領域においてもAIは期待されている。中でも、機械による接客はAIの活躍が期待される分野の1つだ。1対1のコミュニケーションが基本となる接客を人が行うのでは効率化が図りづらく、デマンドに応じて人を配備する人海戦術が基本になってしまう。そこにAIを用いることで、人の応対時間短縮や1対多のコミュニケーションといった効率化を図ることが可能となる。

コミュニケーションをサポートするAIとはどのようなものか。展示されていた事例を3つほど紹介したい。

“ec-CONCIER”

1つめは、ECサイト上でユーザー行動に基づき、割引や商品のレコメンドといったプロモーションを行う「ec-CONCIER」だ。サイト上でのユーザーの動きや訪問回数、再訪率などの定量的データを蓄積し、データに基づいてユーザーを分類。分類ごとにプロモーションを行い、その効果を測定。再度、ユーザーの分類やプロモーション戦略にフィードバックするという、PDCAサイクルをAIがサポートしてくれるというものだ。

従来ではその分野に精通した人間が経験をもとに行っていたプロモーションをAIによって自動的に最適化することで、ユーザーに快適な購買体験を提供しつつ、収益にもつなげることができる。

“Agent Aily”

2つめはec-CONCIERと同様に、ECサイト上で展開される「Agent Aily」だ。チャットボット形式で、メッセージを通した対話でユーザーと接するものだ。Agent Ailyは大きく2つの機能があり、1つはユーザーのニーズに合わせた商品のレコメンド。もう1つはカスタマーサポートだ。どちらもユーザーからの質問や回答を元に会話を通して答えを返していく形となる。

近年ECやサービスサイトなどでチャットによるサポートを目にする機会も増えているが、その裏側をAIが担うというわけだ。

“Repl-AI(レプルエーアイ)”

https://repl-ai.jp/

画像出典 [https://repl-ai.jp/]

続けて、Agent Ailyのようにチャットボット形式でのサポートを、より簡単に導入支援するのが「Repl-AI」だ。GUIで簡単にチャットボットの作成を可能にする「Repl-AI」は、主にサポート窓口の一次受付などで活用されることを想定している。

Repl-AIは条件分岐のあるシナリオをインプットしておき、そのシナリオを元にやりとりをおこなう。チャットボットが一通りの質問を終えた後に、自動的にチャットボットから人間のオペレータに回答権を引き渡し、応対ができる。

回答内容の幅を絞りたいセンシティブな分野でのサポートや、QAが特定の内容に偏りやすい分野でのサポートにおいては、推定を行うよりも安定性と信頼性が担保しやすくなるだろう。

オンラインコミュニケーションはテクノロジーの進化とともに今後更に効率化されていくだろう。AIは間違いなくその一端を担うはずであり、最終的なユーザー体験の向上には欠かせない存在となってくるはずだ。とはいえ、AIはまだまだ発展途上だ。AI自体の質の問題から、応用方法まで、検討すべき項目はいくつもある。これらのピースが上手く揃ったとき、オンラインにおける人と機械のコミュニケーションは人同士のコミュニケーションを超えるかもしれない。

“翻訳技術が溶かす言語の壁”

ドコモが取組んでいる研究の一つに、2020年に向けて発展が期待される翻訳技術がある。訪日外国人数が右肩上がりに増加しているいま、コミュニケーションにおける言葉の壁を取り払うことが求められている。しかし、一口に「翻訳」といってもアプローチは複数存在する。要所要所で活用されている翻訳分野での事例をいくつか見てみよう。

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“インタビュー翻訳アプリ”

一番わかりやすいのが「インタビュー翻訳アプリ」だろう。本サービスは専用アプリとデバイス(マイク)をセットで用いる。マイクに向かってしゃべった内容を音声認識してテキストで画面に映し出し、その対訳がすぐ下にリアルタイムで表示されるようになっている。画面を見ながら会話することで、それぞれの母語で話しながらお互いの発言内容を理解することができるというものだ。

“てがき翻訳”

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すでにサービス提供されているのが「てがき翻訳」だ。前述のインタビュー翻訳アプリのように音声を拾うのではなく、スマートフォンやタブレット上に指などで記述した文字をそのまま翻訳するのがこのアプリ最大の特長だ。アプリには、施設地図や、ゆびさし会話集といった補助機能も搭載され、空港における訪日外国人とのコミュニケーションに大いに役立っているという。

“対訳コーパス管理システム”

最後は、翻訳サービスを裏側で支える技術「対訳コーパス管理システム」だ。翻訳サービスで必ず必要となる、異なる言語の言葉の対を効率よく集めるため、ドコモでは大量に集めたデータファイルの中から、対になる言葉を自動で探し、コーパスを収集管理するシステムを開発しているという。

本来であれば「日本語ファイルAと英語ファイルBが対」ということを明示しなければならなかったが、明示せずとも自動で対訳であることを認識して処理してくれるのが、この「対訳コーパス管理システム」だ。翻訳サービスの根幹とも言える、対訳コーパス収集を効率化し、誤訳をチェックすることで、より精度の高い対訳を作り、結果的にそのコーパスから学習した翻訳エンジンの精度向上にもつながっていく。

言語の壁は、テクノロジーが挑み続けてきた大きな課題だ。近い将来、さまざまな場面で言語の違いに苦しむことはなくなるのではないだろうか。

“ドコモだからできるAI戦略とは”

先読み、購買行動、翻訳…さまざまな分野において、AIは人間の行動をサポートするようになっていく。AIは幅広い可能性がある一方で、インプットするデータや、アウトプットの方法など、人間が正しい方向に導かなければ価値は高まらない。

モバイルから得られたビッグデータを持ち、AI分野での知見を蓄積してきているドコモだからこそ開発できるAIがある。一人ひとりの生活に寄り添うパートナー、ドコモが開発に挑戦するのはそんなAIだ。

Photos : 植村忠透|Tadayuki Uemura
名児耶 洋|Hiroshi Nagoya

Edit : モリ ジュンヤ|Junya Mori
Text : 小山和之| Kazuyuki Koyama