rasen

“IoTは、制御に加えて、価値創造の時代へ”

rasen

少し前は、モノがネットワークに接続するというと、モノ同士で通信を行う「M2M(Machine to Machine)」という言葉が用いられるのが一般的だった。モノ同士を通信させ、人の手を介在させることなく作業を完結するものだ。そこにオープンなネットワークを用いることで場所やデバイスを問わず接続できる様に変化してきており、IoT(Internet of Things)と呼ばれるようになってきた。

たとえば、飲料メーカーが自販機の在庫状況をネットワーク経由で集めて収集し、補充サイクルや売れ行き予測に役立てるといった活用事例。自動車同士でGPSやソナーといったセンサー情報を共有することで適切な車間距離を確保し続ける自動運転技術など、様々なIoT技術が登場してきている。だが、これらはあくまで一つの産業内におけるIoTの活用事例だといえる。

この変化をプラットフォーマーであるドコモの視点から見ると、また違った景色が見えてくる。各産業においてモノを通してインターネットに接続できるドコモならば、IoTはそれぞれの産業に閉じた話で終わらず、異なる産業同士を接続することも可能だ。たとえば、同じ自販機でも決済に用いるスマートフォンから情報を取得し、最適な飲料のリコメンドを行なう機能や、自動車と自宅がネットワークでつながることで、自宅に到着する10分前に暖房をつけ、車庫に入れた瞬間に電気をつけるなど、さまざまな産業を横断した活用を実現できるだろう。

ドコモが狙っているのは、この産業を横断したIoTの領域だ。ネットワークという社会インフラを担うプラットフォーマーとして、一つの産業に特化するのではなく、産業を横断しながら、他社とは異なった視点からIoTの未来を見据えている。そのために必要なのが、個々の産業におけるIoTの知見を深めること。将来的によりよいプラットフォームを提供するべく、ドコモは多様な産業特化のIoTの研究も行なっている。

「DOCOMO R&D Open House 2016」で展示されたIoTの事例を交え、いくつか見ていこう。

rasen

“ドローンが切り開く未来”

rasen

日本ではドローンに関する法整備が急ピッチで進められ、15年末には改正航空法が施行。アメリカ、カナダといったドローン先進国と呼ばれる国々と同様に、技術が追いつくよりも前にドローンの規制範囲が明文化された。

他方で、地方自治体レベルではドローンの事業化への取組みを後押しする活動も拡大している。特に千葉市の取組みは注目度が高く、流通大手や物流大手の民間企業と手を組み、ドローン配達実現に向けた実証実験を行っている。

無論、技術的にも法的にも越えるべきハードルはいくつもあるものの、法の地盤が作られ、技術も着実に積み重ねられているいま、ドローンには大きな期待が寄せられている。このドローン分野においてドコモが担おうとしている事例を紹介する。

 160903_P9I8635_fin

“セルラードローン”

1つは、ドコモのセルラーネットワーク(LTE)網を用いて通信を行えるドローン「セルラードローン」だ。

一般的なドローンでは、送信機(リモコン)・受信機(ドローン)間で通信を行っており、ネットワークもWi-Fiと同様の2.4GHz帯を使用している。この場合、送受信機間の距離が離れてしまうと通信できず、都市部などの過密地域では電波の干渉が起こる恐れもある。

この問題に対して解決策として提示されたのがセルラードローンだ。既存セルラー網を利用することで、携帯電話と同様に電波の届くところであればどこでもドローンが操作可能になる。セルラードローンは、ドローンの航続可能距離を飛躍的に拡大し、物流や農業分野をはじめとしたドローンビジネスのチャンスを大幅に押し広げる可能性を持ち合わせていると言えるだろう。

現在ドコモでは、上空でセルラー網を用いた通信を行うための実用化試験局免許を取得し、すでにセルラー網を用いた映像ストリーミング、遠隔飛行制御、リアルタイム飛行状況モニタリングに成功している。

そして、このセルラードローンの実用性や課題感などを一つひとつ丁寧に検証しているのが、「ドコモドローンラボ」だ。

“ドコモドローンラボ”

「ドコモドローンラボ」では、ドローンがセルラー網を用いた通信を行うことによって発生しうるさまざまな課題に対し、ドローンメーカーと共に各種試験や検証状況のシェアを行う。たとえば、現在取組んでいるのが「上空のドローンがセルラー網に接続することで地上の通信端末(携帯電話等)に影響がないか」というもの。

このような課題に対し、実験施設と実験特区双方で実験を重ねることがドコモドローンラボの役割だ。 

rasen

“テクノロジーが変える都市のすがた”

rasen

これまで独立して機能することが当然だった機械が、ネットワークに接続されることで私たちの体験にどのような変化をもたらすのか。いままでは特定の範囲内のみネットワークに接続されていたデバイスを、都市レベルの広域に広げることで世界はどのように変化するか。

ドコモはこの都市におけるIoTでも、さまざまなパートナーと共に都市の体験を変化させる実証実験を行っている。いくつか事例を見ていこう。

docomoスマートパーキングシステム

docomo0708_03_

「docomoスマートパーキングシステム」は、コインパーキングに設置するIoTデバイスと予約・課金システムを統合したサービスだ。

従来コインパーキングに設置されていたフラップの代わりに、駐車されていることを感知するセンサーと、通信モジュールが内蔵されたデバイスを駐車場に設置。空き状況や利用開始・終了時間をセンサーで読み取りクラウド上で一括管理することで、スマートフォンから空き状況の確認から予約、出庫後の支払までを行えるというものだ。設置コストも従来の約1/3と安価で、設置の手間も杭を打つだけという手軽さだ。

docomoスマートパーキングシステムは16年6月~17年3月まで実証実験を行っており、現時点で「さまざまな課題感も浮き彫りになる一方、ユーザーニーズが確実にあることを実感している」と担当者は語る。都市の駐車場がネットワークに接続していくと、他の産業と連携すれば新たな可能性が広がる。

“神戸市ドコモ見守りサービス(実証実験)”

神戸市では、行政(神戸市)とドコモ、そして現地事業者と共同でIoTを用いた「子どもの見守りサービス」の実証実験を行っている。BLE(Bluetooth Low Energy)を搭載したタグを子どもに持たせ、BLEタグから発信される電波を検知するレシーバーを市内の公共施設や学校、協力する事業者の事務所などに設置する。BLEタグをもった子どもがレシーバーの近くに来ると、子どもの現在地情報がクラウドにアップされ、親の携帯電話に通知されるというものだ。

mimamori画像出典:https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2016/04/18_00.html

本取組みは他事業者・行政までも巻き込んで行っていることが特徴的で、子どもの生活圏をどの程度カバーできたかという判断基準で、成果を定量的に計測しやすい。神戸市での実証実験は17年2月末まで行われる予定だが、すでに神戸市以外の自治体からも実証実験を共に行いたいという声もかかっているという。

都市単位に面でテクノロジーを導入する事例が増えることは、社会全体へのテクノロジーのインストールをより高速に進めることとなる。地域や都市といった単位で大きな変化を起こすことは、より大きな社会課題の解決に寄与することが期待されるだろう。

IoTデバイスが出始めた頃に比べて、実用性が増し、耐えうる社会インフラも整備されてきている。神戸市の事例やスマートパーキングあたりはまさにそうだろう。

rasen

“ウェアラブルデバイスが体験に与える変化”

rasen

デバイスを身につける「ウェアラブルデバイス」も昨今のトレンドの1つだ。アクティビティトラッカーやスマートウォッチといった、日常的、ファッション的に身につけるものが注目を集めがちだが、ビジネスサイドにおける応用も大事なテーマである。

ウェアラブルデバイスを身につけることは、身体能力の拡張やバイタルデータの収集など、いくつか異なる役割が存在する。「DOCOMO R&D Open House 2016」の事例を見ながら、ウェアラブルデバイスが私たちの体験に与える変化を探りたい。

“スマートグラスで現場作業支援”

メガネ型ウェアラブルデバイスのスマートグラス。過去にも国内外でいくつかのデバイスが発表され注目を集めたが、いずれも一般消費者に向けたデバイスだった。対して今回ドコモが展示を行っていたのは、事業者が使用することを想定したビジネス用スマートグラスだ。

今回展示されたのは、建設工事等の現場作業員がスマートグラスを身につけ、内蔵されるセンサーが危険を察知し警告を出したり、映像をリアルタイムで転送しながら遠隔で指示を仰いだりできるというもの。スマートグラスである最大のメリットは手足を一切使わずともほとんどの操作を行えることにあり、細心の注意を払って作業を行う環境においては、スマートグラスが担える役割は決して小さくないだろう。無論現場作業だけで無く、手先を使うさまざまな作業において応用がきく。

ビジネスニーズという切り口で見てみると、スマートグラスは今後の発展も期待できるといえるだろう。ネットワークと接続し、現場で活動している人にとって有用な情報を提供する、といった広がりもあり得る。

“hitoeによる生体情報集約システム”

160903_P9I8867_fin

NTTと東レが共同開発を行った、着るだけで心拍数などの生体情報を取得する機能素材「hitoe」。今回展示されていたのは、収集した生体情報をクラウドにアップロードし、ほぼリアルタイムに手元のスマートフォンで状況を把握できるといったシステムだ。

会場には自転車が用意され、hitoe製ウェアを着用して自転車をこぐと、ハンドル部分に設置されたスマートフォンの画面に自身の心拍情報などが可視化されるデモンストレーションが行われていた。

展示のようなスポーツ分野をはじめ、現場作業員の健康管理といったビジネスシーンでの応用、ひいては簡易的な医療分野に至るまで、hitoeが活用される領域は幅広い。hitoeは生体データのやりとりを行うトランスミッターのSDKを公開しているため、アイデア次第でその可能性はさらに拡張されるだろう。hitoeのようにバイタルデータを収集し、分析するデバイスが他のネットワークと接続していけば、その人の運動量に合わせたリコメンドも可能になる。

社会にデバイスが本当に溶け込むためには、ビジネス分野での拡大も大きな役割を果たすこととなる。それを前提に考えると、今回単なるテクノロジーのショーケースとしてではなく、実際にビジネスに落とし込んだかたちを提示していたことは、未来を考える上で一つの兆しを見ることができたといえるのではないだろうか。

rasen

“通信が発達する未来におけるIoT”

rasen

さまざまな事例を通して改めて考えたいのが、IoTを裏側で支えるネットワークだ。IoTによってネットワークを介して通信を行う端末数と、その通信量が爆発的に増加することが予測されるいま、ネットワークの容量拡大や、使用用途に合わせて効率的にネットワークを提供する技術の実現が急務であり、それを解決するのが次世代ネットワークである5Gの役割と言える。

本記事でご紹介したドコモの事例を含め、着実に歩みを進めるIoT。5Gはその歩みと同程度ないしは追い抜くほどの早さで進めることが求められる。2020年に向け、IoTは加速度的に進歩していくだろう。

Photos : 植村忠透|Tadayuki Uemura
Edit : モリ ジュンヤ|Junya Mori
Text : 小山和之| Kazuyuki Koyama