境界が曖昧になる、デジタルとアナログ

佐々木 戦後日本の都市景観は奇天烈な建物を建てまくってそれだけが目立っている構造から、そうじゃない方向に戻りつつあると思います。デジタルとアナログも融合し、プライベートとパブリックも融合するもうちょっと有機的なものに世界全体が変わりつつあるということですね。

木下 映像表現も同様にデジタルの表現というよりも、アナログとの融合、たとえば自然な形で情景と溶け込むような表現がでてきていますね。いま流行のVRはヘッドマウントディスプレイを装着する必要があり、デジタル感がまだ露骨ですが、Kirari!では何もつけなくても同様の臨場感を得られるようにしたいです。

pen_img_20160920_03リアルな卓球台が設置してある空間に、ほかの場所で試合をしているプレイヤー2人の映像をリアルタイムで映し出す。リアルな卓球台とプレイヤーの虚像の組み合わせが、リアリティを増強している。

pen_img_20160920_04舞台の左右に設置されたスクリーンに映し出されているのは、一般的なテレビ放送などで用いられている背景込みの映像。舞台の中央には、背景からリアルタイムで切り出された被写体が、まるでそこに存在しているような臨場感で映し出されている

pen_img_20160920_056名のうち、実在しているのは指揮者と左のシンバル奏者、右の小太鼓奏者だけ。ほかの女性3人は虚像だ。遠隔地の演奏を中継することで、あたかもそこでコンサートが行われているかのように音楽鑑賞ができるようになるかもしれない。

佐々木 ポストモダン、脱近代って現代思想的には20 世紀の半ばから語られているんですけど、ようやく実社会にカタチとなってきたのが21世紀に入ってきてからという感じがします。ようやく機能的なものから離れて、もうすこし有機的なものに戻りつつある。

pen_img_20160920_06スマホとビューワーを利用し、そこがミニチュアサイズのライブ会場になる。舞台の背景から切り出されたアイドルが、目の前で歌い、踊ってくれる。Kirari!で目指している事例のひとつだ。

木下 Kirari!はいろんな表示形態をつくっています。大型のシアター的なものもあれば電子レンジサイズのミニチュアサイズ、あとスマホに箱を載せると中で立体的に見える手のひらサイズのものがあります。手のひらサイズのKirari!は背景画面と前景に切り出した人の画面などを合成して見せます。スマホのセンサーを利用し、現在視聴している視点とは異なる視点で立体的に画面を見ることも可能になるかもしれません。たとえば現在正面から視聴している相撲中継で向正面に回り込んで見るということができるようになるかもしれません。

村松 イルカショーみたいなものをアプリで見ることは可能ですか? 家に帰って別のアングルでドルフィンパフォーマンスを見るとか、ジャンプした瞬間を止めてぐるっと回って見るとか。

木下 できます。しかも大量のカメラを会場に設置しなくても、カメラとカメラの間の視点を自動合成する技術により、少数のカメラで自由視点鑑賞ができるようになります。あとはカラオケボックスみたいな部屋で自分の好きなアイドルとデュエットするとか。そのとき目線が合うようにしたりするのも面白いかもしれないですよね。

村松 人間のリアルなサイズにこだわらず、大きくもできるんですよね?

木下 たとえば都心のビル街区に、50m級の柔道選手が出てくるとか。摩天楼に巨大な映像を出してみたいけれど、何に投射するかが難しいんです。試したことがあるのは水蒸気とか。50mの人が空に映って見える。20年は駅前で飲んだ後、空を見上げたら巨大な人が柔道をやっているのが見えたら面白いですよね。

イマーシブテレプレゼンス技術「Kirari !」とは?

スポーツ競技そのものを世界の各都市へ等しくリアルタイムに伝送する。
そんな2020年の未来を描くべくNTTが研究開発している技術が「Kirari!」だ。世界のあらゆる場所で、あたかも目の前で競技が行われているかのごとく再現し、競技そのものを見ていると感じられる高い臨場感を提供するため、リアルタイムで被写体を切り出し、被写体と背景映像を分離する技術、 被写体映像や背景映像、音響データをバラバラにリアルタイム伝送しても、再現場所で同期再生することが可能な技術、被写体からあたかも音が発生するかのような効果を与える音響技術などの研究開発を実施している。

【Pen 10/1号からの抄録】

写真=殿村誠士 Seiji Tonomura

文=ガンダーラ井上 Gandhara Inoue
イラスト =岡野賢介 Kensuke Okano